全国文学館協議会会長趣旨文

全国文学館協議会 第9回(2020 年度 )共同展示
3.11文学館からのメッセージ

この全国文学館協議会の共同展示は、二〇一一年三月一一日の東日本大震災を契機に開催されました。死者に対する鎮魂と被災者への慰謝を願う心から、当時の会長 中村稔氏の提案に賛同した文学館が二〇一三年三月一斉に展示を始めました。
東日本大震災は、地震・津波に加えて、福島の原子力 発電所のメルトダウンによる放射能汚染が深刻な影響を多方面に与えました。汚染水の処理も今だにコントロールできず、廃炉の具体的な方策も進捗していません。苛酷な体験をした人は口を閉ざし、十年経って少し語り出しました。指が一本ない死者、そこにあったはずの指輪はない。肉親を捜し廻った折の腐敗していく死臭など映像にも映らない。補償の金額の多少がかつてのコミュニティを破壊しました。
この様な忌わしい記憶を、人は消し去ろうとします。そうでなくても記憶は時間に洗われて変容し、忘却されていきます。
三・一一以来、この十年間日本列島は自然の猛威に晒 され、想定外を常套語とする人災も加わり、復興途上の東北地方は再度のダメージを被りました。
顧みればこの国は二〇一四年九月御嶽山噴火、二〇一六年四月熊本地震、二〇一八年七月西日本豪雨、二〇一九年一〇月台風一九号で死者・不明者を多数出し、建物の全壊や床上浸水、加えて貴重な文化財、文献資料、農林水産業等計り知れない被害を受けました。
多くの表現者が天災地変を直視し、無念な思いで死んでいった死者に代わり、また残された人の哀しみに寄り添い、多彩な表現を紡ぎ出してきました。それらの表現を収集し、展示をし、保存していくことも文学館の使命であると考えます。
ここに全国文学館協議会の各館は、この未曽有の大災害を直視し、記録に留め、死者たちへの鎮魂と哀悼、被災者への慰謝と地域の復興を願って、共同展示を開催いたします。

二〇二一年一月


全国文学館協議会
会長 山崎一穎